古物商の取引記録義務 - 記録義務のある古物と記録の方法
はじめに
「100円で買い取ったものでも記録が必要?」
「どうやって帳簿を付けたらいいかわからない」
古物商は、盗品の流通を防止するための防犯三大義務の一つとして、古物の取引を行ったときは、その日付や古物の特徴、相手方の氏名等を帳簿等に記録し、3年間保存しておかなければなりません。
なお、すべての取引について記録義務が課せられているわけではなく、一定の条件のもと免除される場合もあります。
今回は、その記録義務の原則と例外、そして、記録の方法や記録しなければならない事項を行政書士が解説します。
目次
記録が必要になる場合
(古物営業法(以下、「法」という。)第16条第1項)
原則、古物商は、次のときは、その都度、その取引を記録しておかなければなりません。
記録が必要なとき
以下により「古物を受け取り」又は「古物を引き渡した」とき
- 古物の売買
- 古物の交換
- 古物の売買又は交換の委託
記録義務が免除される場合
(法第16条第1項ただし書)
「古物の受け取り」又は「古物を引き渡した」ときでも、次の場合には記録義務の全部又は一部が免除されています。
記録義務が免除される場合
- 対価の総額が1万円未満の取り引きをした場合
- 自己が売却した物品を当該売却の相手方から買い戻した場合
- 国家公安委員会規則で定める古物を売却した場合
「対価の総額」とは、古物の個別の単価ではなく、一度の取り引きに持ち込まれた古物すべての総額をいいます
対価の総額が1万円未満でも免除されない古物
(法第15条第2項かっこ書及び古物営業法施行規則(以下、「規則」という。)第16条各号)
買取又は売却の対価の総額が1万円未満の少額取引であっても、窃盗その他の犯罪の防止のため、特に措置をとる必要があるものとして定められている次の古物については記録義務は免除されません。
1万円未満でも記録しなければならない古物
- 自動二輪車及び原動付自転車(部分品を含む)
- 専ら家庭用コンピュータゲームに用いられるプログラムを記録した物
- 例:ゲームソフトなど
- 光学的方法により音又は影像を記録した物
- 例:CD、DVD、BDなど
- 書籍
部分品でも、汎用性の高い「ねじ」「ボルト」「ナット」「コード」などについては、売却時の記録義務は免除されますが、買取時には記録しなければなりません
国家公安委員会規則で定める古物とは
(規則第18条第1項)
国家公安委員会規則で定める古物とは、以下にあげる古物以外のものをいいます。
つまり、次の古物を売却したときは記録をする必要がありますが、それ以外の古物を売却したときは義務が免除されるということです。
これは、被害品の発見を確実に行い、速やかに被害品の回復を行う必要があるものを除き、売却時の記録義務を免除したものです。
[記録義務あり] 国家公安員会規則で定める古物にあたらないもの
- 美術品類
- 時計・宝飾品類
- 自動車(部分品を含む)
- 自動二輪車及び原動付自転車(部分品を含む)
自動二輪車及び原動付自転車の部分品で、対価の総額が1万円未満のものを除く
記録義務のある古物 - 早見表
条文の構成では、原則として記録義務があり、その例外として免除される場合、さらには、免除される場合から除外される古物などと、少々ややこしいですが、これらを表にまとめると一目瞭然です。
次の表に載っている古物を取引したときは、記録をする必要があります。
対価の総額 | 買取 | 売却 |
---|---|---|
1万円以上 | すべての古物 | ・美術品類 ・時計・宝飾品類 ・自動車*2 ・部分品を含む ・自動二輪車及び原動付自転車 ・部分品を含む |
1万円未満 | ・自動二輪車及び原動付自転車 ・部分品を含む*1 ・ゲームソフト ・CD、DVD、BDなど ・書籍 | ・自動二輪車及び原動付自転車 ・部分品を除く |
*1 「ねじ」「ボルト」「ナット」「コード」その他はん用性の部品を除く
*2 自動車を売却する際は、相手方の住所、氏名、職業及び年齢の記録は不要
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どのような方法で記録を残すか
(法第16条第1項)
「古物を受け取り」又は「古物を引き渡した」ときは、次のいずれかの方法により記録しておかなければなりません。
3つの記録方法
- 帳簿への記載(規則第17条第1項に定める様式)
- 帳簿に準ずる書類への記載(買取伝票など)
- 電磁的方法による記録(POSシステムなど)
帳簿に準ずる書類
(規則第17条第2項)
「帳簿に準ずる書類」とは、規則第17条第1項に定める様式の帳簿ではありませんが、所定の記載事項が記載できるようになっている、次の2つのものをいいます。
- 記載すべき事項を営業所における取引の順に記載することができる様式の書類
- 取引伝票その他これらに類する書類であって、記載すべき事項を取引ごとに記載することができる様式のもの
①の書類は、あらかじめとじ合わせてあるもの
②の書類は、一枚ごとに分離された状態で記載するようになっているもので、帳簿として保存する場合は、営業所における取引の順にとじ合わせておく必要があります
電磁的方法による記録とは
コンピューターのハードディスク等への入力による記録をいいます。
したがって、紙媒体での記録のほか、Excel等に入力して保存しておくことも認められています。
PCなどで記録する場合「直ちに書面に表示(後述)」することがきるように保存しておかなければなりません
何を記録しなければならないか
(法第17条各号)
帳簿等に記録することとされている事項は「取引の年月日」 「古物の品目及び数量」「古物の特徴」「相手方の住所、氏名、職業及び年齢」「相手方の身分を確認した方法」の5つです。
なお、「帳簿」の様式としては、古物営業法施行規則第17条において別記様式第15号に規定されており、実際に記載する具体的な項目は次の通りです。
施行規則別記様式第15号 -
古物の区分のうち「自動車」を引き渡す場合は、自動車登録制度により相手方を容易に特定可能なため、住所、氏名、職業及び年齢の記載は免除されます(法第16条第4号ただし書及び規則第18条第2項)
「区別」とは
「受入れ」においては、「買受け」又は「委託」の別を記載を記載します。
「払出し」においては、「売却」「委託に基づく引渡し」又は「交換」の別を記載します。
「古物の品目」とは
「書籍」「衣類」「腕時計」「自動車」など、品物の種類を記載します。
「古物の特徴」とは
メーカー名やブランド名、色や材質、保存状態、シリアルナンバーなど、品物を特定する事項を記載します。
- 書籍 …「作品名、カバーなし」など
- 衣類 …「ジャケット、シングル、ネイビー、コットン」など
- 腕時計 …「オメガ、何型、何番、文字盤に傷あり」など
自動車の場合
自動車に関する取引においては、以下の事項を記載してください。
- 自動車検査証に記載された自動車登録番号又は車両番号
- 車名
- 車体番号
- 所有者の氏名又は名称 等
原則 品目や特徴等は1品ごとに記載
原則、古物の品目や特徴等は1品ごとに記載することとされていますが、書籍については、同一人から同時に複数冊の買取等を行った場合には、まとめて記載することが認められています。
- 主要な書籍1点の名称を記載し、他は冊数のみ記載(例:呪術廻戦ほか10冊)
- 書籍の種類ごとに冊数を記載(例:コミック6冊、文庫3冊、写真集1冊)
「相手方の身分の確認方法」とは
運転免許証や保険証、マイナンバーカードなど、相手方の氏名や住所等の確認を取った書類の種類や詳細を記載します。
記載例
- 「運転免許証 ○○公安委員会交付 第○○○○号」
- 「国民健康保険被保険者証 〇〇区発行 ※被保険者証記号・番号は記載しない」
- 「マイナンバーカード 〇〇市長発行 ※カード裏面の番号は記載しない」
- 「署名文書提出(署名させた文書の場合)」(署名文書も帳簿と共に保存してください)
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法人との取引の場合
法人との取引の場合は、「取引の相手方」には、以下の事項を記載してください。
- 法人の所在地
- 法人の名称
- 取引担当者の住所、氏名、職業(部署、窓口電話番号)
帳簿等の保存期間は3年間
(法第18条第1項)
古物商は、帳簿等を最終の記載をした日から3年間、営業所において保存しておかなければなりません。
電磁的方法により記録をした場合は、当該記録をした日から3年間、営業所において直ちに書面に表示できるようにして保存しておかなければなりません。
「直ちに書面に表示できるように保存」といえるためには
例えば、警察から求められた際に、ハードディスク等に入力した取引記録を直ちに印刷できるように、各営業所に印刷に必要な機器等を備え付けておくことが必要です。
各営業所で当該記録を印刷することが可能である限り、POSシステムなどのようにデータを本社や本部のコンピューターに保存して一括管理することは許容されています
帳簿を失くしたりデータが消えてしまったときは
(法第18条第2項)
帳簿が汚れて一部ページが判読不能になった又は帳簿自体を失くしてしまった、もしくは、ハードディスク等に記録した帳簿データが破損した又は消失してしまった場合は、直ちに営業所の所在地の管轄警察署に届け出なければなりません。
「古物商特例」適用時の保存期間と記載事項
インボイス制度における古物商特例の「帳簿の保存要件」を満たすため、消費税法の帳簿(総勘定元帳等)とともに保存する場合の期間は7年間となります。
また、その場合においては、古物営業法の帳簿(古物台帳等)には、法定されている記載事項に加え、「支払対価の額」を記載する必要があります。
特典1
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「本人確認」で用いた身分証明書等の保存
古物商が相手方と対面しないで取引を行う場合において、相手方の身分確認の方法として「身分証明書等」「住民票の写し等」「補完書類」を用いたときは、その送付(送信)を受けたコピー(又は画像)は、帳簿等又は電磁的記録とともに保存することとされています。
保存方法としては、そのコピー等が「どの取引において送付等を受けたものか」わかるようにしておくとよいでしょう。
保存期間については、帳簿等の保存期間と同様3年間は保存し、期間満了後は破棄しても構いません。
罰則
(法第33条第2号第3号)
次のときは、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金あるいはその両方に科される可能性があります。
- 必要な記録をしない又は虚偽の記録をしたとき
- 記録がき損し、若しくは亡失し、又はこれらが滅失したのにもかかわらず、これを届けない又は虚偽の届出をしたとき
これは、法第38条により両罰規定とされているため、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても罰金刑が科されることもあります。
また、「指示」や「営業停止」といった行政処分を受ける場合もありますので帳簿はしっかりつけるようにしましょう。
Q&A
-
古物の売却のみを行っている営業所に買取のための帳簿を備え付けておく必要はありますか
-
いいえ、必要ありません。例えば、古物商Aが甲及び乙の2つの営業所を有する場合において、営業所甲では売却のみを行っており、営業所乙においては、営業所甲で買い取りをした古物の売却のみを行っているときは、営業所甲において買取に係る事項を記載するための帳簿を備え付けておく必要はありません。
-
PCに保存した帳簿をモニターやタブレット端末に表示するのではだめですか
-
警察に求められた際に、たまたまプリンターが不調であった場合は、やむを得ないかもしれませんが、あくまで、法律上は「書面に表示」ですので、直ちに紙にプリントアウトする必要があります。