貴金属等を取り扱う古物商必読!犯罪収益移転防止法における義務

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はじめに

貴金属等を取り扱う古物商には、古物営業法の規定する「相手方の確認」「帳簿の記載・保存」「不正品の申告」などの義務に加え、特定の条件の下犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下、「犯罪収益移転防止法」という。)の規定する義務が課せられることになります。

犯罪収益移転防止法の目的は、ごく簡潔に言うと、「マネーロンダリング及びテロ資金供与の防止」にあります。

今回は、犯罪収益移転防止法の規定が古物商にも及ぶこととなる「対象となる取引」や「課せられる義務」などについて、行政書士が解説します。

インボイス制度における「古物商特例」の4つのポイント

古物商特例が適用される条件とは?「取引の相手方」や「帳簿の記載事項」など、古物商特例の4つのポイントについて行政書士が解説します。

犯罪収益移転防止法では、金融機関、ファイナンスリース事業者、クレジットカード事業者、カジノ事業者、宅地建物取引業者、貴金属等取扱事業者、郵便物受取・電話受付サービス業者、士業(弁護士・行政書士等)などを、この法律の対象となる「特定事業者」として規定しています。(犯罪収益移転防止法第2条 (以下、「法」という。)

この中でも「貴金属等取扱事業者」が、古物商にも及ぶことになります。つまり、この法律の対象となるのは、「古物である貴金属等の売買を行う古物商(特定古物商)」です。(法第2条第2項第43号)

「貴金属等」とは

犯罪収益移転防止法において対象となる「貴金属等」とは、貴金属若しくは宝石又はそれらの製品の3つのことを指し、具体的にはそれぞれ次のものが該当します。(法第2条第2項第43号及び犯罪収益移転防止法施行令第4条(以下、「令」という。))

  • 貴金属 … 金、白金、銀及びこれらの合金
  • 宝石 … ダイヤモンド、その他の貴石(ルビー、サファイア、エメラルド等)、半貴石(貴石以外の宝石)及び真珠
  • これらの製品 … ①貴金属や②宝石を使用した製品

犯罪収益移転防止法では、特定事業者の行う業務のすべてが対象となるわけではなく、義務の対象となる業務「特定業務」が定められています。特定古物商においては、上記貴金属等を売買する業務がこれにあたります。

また、特定事業者に取引時確認義務が課せられるのは、すべての取引についてではなく、特定業務のうち一定の取引「特定取引等」を行うときです。

用語解説:「特定取引等」=「特定取引」+「ハイリスク取引」

特定取引

特定取引とは、次の2類型「対象取引」と「特別の注意を要する取引」をいいます。

  • 「対象取引」)代金の支払いが現金200万円を超える貴金属の売買取引(令第7条第1項第6号及び犯罪収益移転防止法施行規則第4条第1項第11号(以下、「規則」という。)
  • 対象取引以外の取引で「特別の注意を要する取引」(令第7条第1項)
    • マネーロンダリングの疑いがあると認められる取引
    • 同種の取引の態様と著しく異なる態様で行われる取引

200万円以下の取引であっても、1回あたりの取引の金額を減少させるために分割された取引は、一の取引とみなされ、取引時確認義務が課せられます(令第7条第3項)

ハイリスク取引

いわゆるハイリスク取引とは、マネーロンダリングに用いられるおそれが特に高い取引のことを言います。具体的には以下の通りです。(法第4条第2項及び令第12条)

  • なりすましの疑いがある取引
  • 本人特定事項を偽っていた疑いがある顧客等との取引
  • マネー・ローンダリング対策が不十分であると認められる特定国等(2023年11月20日時点では「イラン」及び「北朝鮮」)に居住している顧客との取引
  • 外国PEPs(重要な公的地位にある者(Politically Exposed Perseons))との取引

特定事業者の特定業務と特定取引

特定事業者特定業務特定取引等
特定取引ハイリスク取引
貴金属等取扱事業者貴金属等の売買・代金の支払いが現金で200万円を超える取引(対象取引)
・特別の注意を要する取引
・なりすましの疑いがある取引
・特定国等に居住・所在している顧客等との取引
・外国PEPs(重要な公的地位にある者との取引
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特定事業者(特定古物商)が特定取引等を行うときは、公的証明書等(本人確認書類)による本人特定事項や取引の目的の確認などが必要です。

なお、取引時確認の確認事項とその確認方法は、特定取引であってハイリスク取引に該当しない取引(「通常の特定取引)と「ハイリスク取引」のいずれかに該当するかにより異なります。

用語解説:「通常の特定取引」=「特定取引等」-「ハイリスク取引」

通常の特定取引における確認事項

通常の特定取引を行うにおいては、顧客等が自然人(個人)又は法人であるかに応じて、以下の事項について確認する必要があります。

顧客等が自然人(個人)の場合

確認事項確認方法
本人特定事項
・氏名、住所、生年月日
運転免許証、マイナンバーカード、在留カード等により確認
取引を行う目的申告により確認
職業申告により確認

運転免許証などの公的証明書等で有効期限のあるものは期限内、有効期限のないものは、確認日前6か月以内に発行されたものでなければなりません。(規則第7条)

顧客等が法人の場合

確認事項確認方法
本人特定事項
・名称、本店所在地等
登記事項証明書等により確認
取引を行う目的申告により確認
事業内容の確認定款、登記事項証明書等により確認
実質的支配者申告により確認

実質的支配者とは、法人の事業経営を実質的に支配することが可能となる関係にある自然人をいい、法人の区分に応じて定められています(規則第11条)

ハイリスク取引における確認事項

ハイリスク取引を行う場合、「本人特定事項」と「実質的支配者」については、通常の特定取引を行う場合よりも厳格な方法により確認を行う必要があります。

さらに、200万円を超える取引である場合には、顧客等の「資産及び収入の状況」を源泉徴収票、預貯金通帳、貸借対象票、損益計算書等により確認しなければなりません。

ハイリスク取引の際の本人特定事項の確認方法

ハイリスク取引時の本人特定事項の確認方法は、通常の特定取引時に行う確認方法に加え、追加の本人確認書類若しくは補完書類等の提示又はその写しの送付を受ける必要があります。

通常の確認方法

本人確認書類による確認

追加の確認方法

本人確認書類又は補完書類等の提示
又は
本人確認書類若しくは補完書類等又はその写しの送付

「補完書類等」とは、国税又は地方税の領収証書又は納税証明書、社会保険料の領収証書、公共料金の領収証書等を指します。(規則第6条第2項)

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「取引時確認」を行った場合には、直ちに確認記録を作成し、取引の行われた日から7年間保存しなければなりません。確認記録に記録すべき事項の例としては、以下の通りです。

  • 取引時確認を行った者
  • 確認記録を作成した者
  • 取引時確認を行った取引の種類
  • 顧客等の本人特定事項
  • 代表者等(取引担当者等)の本人特定事項、取引の任に当たっていると認めた理由、代表者等と顧客との関係
  • 取引を行う目的
  • 顧客が自然人(個人)の場合:顧客の職業
  • 顧客が法人の場合:事業内容、実質的支配者の本人特定事項、実質的支配者と顧客との関係
  • 異なる名義を用いる理由 等

「特定業務」に係る取引を行った場合には、少額の取引その他政令で定める取引を除き、直ちに取引記録を作成し、取引の行われた日から7年間保存しなければなりません。(法第7条)

つまり、特定古物商においては、取引時確認義務の場合と同様、代金の支払いが現金で200万円を超える貴金属等の売買取引を行った場合は、顧客等の確認記録を検索するための事項や取引の期日及び内容等を記録する必要があります。(令第15条第1項第3号ハ及び4号、規則第22条第1項第4号)

取引記録に記録すべき事項の例としては、以下の通りです。

  • 口座番号その他顧客等の確認記録を検索するための事項
  • 取引の日付
  • 取引の種類
  • 取引に係る財産の価額
  • 財産の移転に伴う取引の場合、当該財産の移転元又は移転先の名義等 等

特定取引等(特定取引及びハイリスク取引)に該当しない取引でも、特定業務(貴金属等の売買)にあたる場合は、取引記録の作成・保存と疑わしい取引の届出(後述)の対象となります。

「特定業務」に係る取引について、次のような疑いがあると認められる場合は、疑わしい届出として、所定の事項(届出を行う特定事業者の名称及び所在地、取引が発生した年月日及び場所など)を行政庁に届出を行わなければなりません。(法第8条及び令第16条)

  • 貴金属等の売買において収受した財産が犯罪による収益である疑いがある
  • 顧客がマネーロンダリングを行っている疑いがある

特定古物商の場合、その届出先となるのは、各営業所の所在地の管轄警察署になります。

取引時確認、取引記録等の保存、疑わしい取引の届出等を的確に行うため、また、取引時確認をした事項を最新の内容に保つため、以下の措置を講じる必要があります。(努力義務:法第11条及び規則第32条第1項)

  • 使用人に対する教育訓練の実施
  • 取引時確認等の措置の実施に関する規定(社内規則、マニュアル)の作成
  • 自らが行う取引についてのリスク評価
  • 必要な情報収集・整理・分析
  • 取引時確認等の措置の的確な実施のために必要な監査その他業務を統括管理する者の専任
  • リスクの高い取引を行う際の統括管理者の承認
  • リスクの高い取引について行った情報収集・分析結果を文書化・保存
  • 必要能力を有する職員の採用
  • 取引時確認等に係る監査の実施

特定事業者を所管する行政庁は、特定事業者が義務に違反していると認めるときは、違反を是正するため必要な措置を取るべきことを命ずることができます。(法第18条)

特定事業者が、この「是正命令」に違反したときは、2年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処せられ、又は、これを併科される可能性があります。(法第25条)

また、違反の行為者だけではなく、その法人や法人の代表者に対しても3億円以下の罰金が科せられる可能性があります。(法第31条:両罰規定)

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