古物営業法違反で行政処分?「指示」と「営業停止命令」について
はじめに
古物営業法には、許可の取得に関するものから古物商がその営業において遵守すべき義務に関するものまで、様々な規定が含まれています。
もし、古物商が法令に違反した場合、罰金刑や懲役刑に加えて、指示や営業停止命令、許可取消といった行政処分が課される可能性があります。
そこで、今回は、行政処分のうち「指示」や「営業停止命令」に関する対象違反行為や処分の基準について行政書士が解説します。
目次
指示・営業停止の対象となる違反行為
指示又は営業停止命令の対象となる法令違反行為は、「B」「C」「D」「E」及び「F」に分類されています。
別の記事で解説しますが「A」に分類される3つの違反行為は、古物商許可の取消の対象となっています。
「B」に分類される違反行為
- 指示処分違反
指示処分違反とは、既に行った違反行為に対して「指示」が出されたにもかかわらず、その指示に従わないことを指します
「C」に分類される違反行為
- 古物商の営業制限違反
- 品触れ相当品届出義務違反
- 差止め物品保管義務違反
差止めとは、古物商が買い受けた古物に盗品等の疑いがある場合には、警察本部長等は、30日以内の期間を定めて、その古物の保管を命ずることができます(法第21条)
「D」に分類される違反行為
- 許可申請書等虚偽記載
- 競り売り届出義務違反
- 古物市場での取引制限違反
- 確認等義務違反(防犯三大義務)
- 不正品申告義務違反(防犯三大義務)
- 帳簿等記載等義務違反(防犯三大義務)
- 帳簿等備付け等義務違反
- 品触書保存等義務違反
- 立ち入り等の拒否等
- 報告義務違反
「E」に分類される違反行為
- 変更届出義務違反
「F」に分類される違反行為
- 許可証返納義務違反
- 許可証携帯義務違反
- 行商従業者証携帯義務違反
- 標識掲示等義務違反
- 許可証亡失等届出義務違反
- 許可証等提示義務違反
- 管理者選任義務違反
指示とは
(古物営業法(以下、「法」という。)第23条)
公安委員会は、古物商、管理者又は従業員等が古物営業法等に違反した場合において、盗品等の売買等の防止又は盗品等の速やかな発見が阻害されるおそれがあると認めるときは、古物商に対し、その営業の適正な実施を確保するため必要な措置をとるべきことを「指示」することができます。
指示の内容
指示の具体的な内容としては、次の通りとなります。
- 違反行為の原因となった事由を解消及び同種又は類似の違反行為が将来において行われることを防止するための措置
- 違反行為によって生じた違法状態が残存しているときは、その違法状態を解消するための措置
- 盗品等の売買等の防止又は速やかな発見のために必要な措置
- 以上に規定する措置が確実にとられたかどうか確認する必要があるときは、その措置の実施状況について公安委員会に報告する措置
違反行為の態様や生じた違法状態の残存の程度等を考慮し、措置には期限を設けられることがあります
指示が行われるとき
処分基準
次のいずれかに該当するときは、指示を行うものとされています。
- 古物商が上記B、C、D、E又はFの違反行為を行ったとき
- 古物商が指導及び監督その他必要な措置を尽くしていなかったことにより、管理者又は従業員等が上記B、C、D、E又はFの違反行為を行ったとき
指示の形式と弁明の機会
指示は、指示書という形式の書面によって行われます。
また、指示は、行政手続法上の不利益処分に該当するため、これを行う場合は「弁明」の機会が与えられます。
弁明は、行政庁が口頭ですることを認めたときを除き、弁明書を提出し、書面による審理が行われます。
弁明書には「証拠書類等」を添付することができます(行政手続法第29条第2項)
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営業停止命令とは
(法第24条)
公安委員会は、古物商に対し、最長で6か月間、その古物営業の全部もしくは一部の停止を命ずることができます。
営業の一部の停止命令
営業所が複数ある場合において、次の条件を満たすときは、一部の営業所に対してのみ営業停止命令を行うことができるとされています。
- 一部の営業所のみを対象として営業停止命令を行うべき必要があり、かつ、それにより目的を達成できる場合
例えば、古物商がA営業所とB営業所を有している場合において、B営業所のみが違反行為を行ったときは、一律にAB両営業所を営業停止とするのではなく、B営業所に対してのみ処分を課すこともできるということです。
営業停止命令が行われるとき
処分基準
営業停止命令は、次のいずれかに該当し、盗品等の売買等の防止又は盗品等の速やかな発見が著しく阻害されるおそれがあると認めるときに行うものとされています。
- 古物商が上記B、C、D又はEに分類される違反行為を行ったとき
- 古物商が指導及び監督その他必要な措置を尽くしていなかったことにより、管理者又は従業員等が上記B、C、D又はEに分類される違反行為を行ったとき
また、比較的軽微な違反である「F」に分類される行為については、それ単独では営業停止とはならず、あわせて、次のいずれかに該当するときは営業停止命令を行うとされています。
- 対象違反行為と同種又は類似の法令違反行為が繰り返し行われているとき
- 対象違反行為を行った日から5年以内に営業停止命令を受けたことがあるとき
- 対象違反行為を行った日から3年以内に指示を受けたことがあるとき
- 対象違反行為に関する証拠を隠滅し、偽造し、又は変造しようとしたとき
- 引き続き営業を行った場合に盗品等の売買等の防止又は盗品等の速やかな発見が著しく阻害されるおそれがあると認められるとき
法令違反状態の解消等のために必要があると認めるときは、営業停止命令に併せて「指示」を行うことができるとされています
営業停止の基準期間
営業停止の期間に関しては、法令違反行為の各分類ごとに基準となる期間(「基準期間」)、さらに、その「長期」と「短期」が定められています。
なお、長期については、法第24条の規定により、6か月を超える期間を定めることはできません。
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営業停止の期間の決定
営業停止の期間は、原則として、B~Fの分類に基づく「基準期間」となりますが、違反行為の態様や程度により、量定の範囲内において加重又は軽減されることになります。
期間の短縮が認められる場合
次のいずれかに該当する場合は、「短期」を下回らない範囲内において、基準期間より短い期間を営業停止期間とすることができます。
- 盗品等の売買等の防止又は盗品等の速やかな発見が対象違反行為によって阻害される程度が低いと認められること
- 対象違反行為が自発的に行ったものではなく、暴力や脅迫により他人に強要されたものであること
- 管理者や従業員等が対象違反行為を行うことを防止できなかったことにつき、古物商の過失が極めて軽微であると認められること
- 対象違反行為と同種又は類似の法令違反行為が将来において行われることを防止するための措置を講じていること
- 対象違反行為によって生じた違法状態もしくは依頼者等の被害を解消していること
- 対象違反行為によって生じた違法状態もしくは依頼者等の被害を回復するための措置を自主的にとっており、かつ、改悛の情が著しいこと
改悛(かいしゅん)の情とは、犯した悪事や過ちを悔い改め、心を入れ替えることをいいます
期間が延長されてしまう場合
次のいずれかに該当する場合は、「長期」を超えない範囲内において、基準期間より長い期間を営業停止期間とすることができます。
- 対象違反行為の態様が極めて悪質であること
- 法令又は「指示」に違反した程度が著しく大きいこと
- 盗品等の売買等の防止又は盗品等の速やかな発見が対象違反行為によって阻害される程度が著しく高いと認められること
- 古物商が対象違反行為を行った日から5年以内に同種又は類似の違反行為を理由として、指示又は営業停止命令を受けたこと
- 管理者や従業員等が対象違反行為を行うことを防止できなかったことにつき、古物商の過失が極めて重大であると認められること
- 古物商が対象違反行為に関する証拠を隠滅し、偽造し、又は変造しようとするなど情状が特に重いこと
営業停止命令の併合
2以上の法令違反行為について同時に営業停止命令を行うときは、1つの営業停止命令を行うものとされており、その期間については、次の通りとなります。
- 基準期間 各法令違反行為の基準期間のうち最も長い期間の1.5倍
- 短期 各法令違反行為の短期のうち最も長いもの
- 長期 各法令違反行為の長期のうち最も長い期間の1.5倍
併合の具体例
指示処分違反と確認義務違反があり共に営業停止に該当する場合を見てみましょう。
分類 | 違反行為 | 基準期間 | 短期 | 長期 |
---|---|---|---|---|
B | 指示処分違反 | 4か月 | 2か月 | 6か月 |
D | 確認義務違反 | 1か月 | 14日 | 2か月 |
「各法令違反行為の…のうち最も長い…」とあるため、Bに分類される「指示処分違反」の基準期間、短期及び長期を基に算出されます。
- 基準期間 4か月 × 1.5 = 6か月
- 短期 2か月
- 長期 6か月 × 1.5 = 9か月 ですが、法第24条「六月を超えない範囲内で…」の規定により、9か月から6か月に縮減されることになります
2以上の法令に違反した場合
観念的競合
2以上の法令の規定に違反する1つの行為について営業停止命令を行うときは、最も長いものが基準期間、短期及び長期となります。
常習的と見なされた場合
常習違反加重
古物商が営業停止命令を受けた日から5年以内に当該古物商に対し営業停止命令を行うときは、その基準期間、短期及び長期は、それぞれ2倍にした期間となります。
営業停止命令の形式と聴聞
営業停止の命令は、営業停止命令書という形式の書面によって行われます。
こちらも行政手続法上の不利益処分に該当しますが、指示処分時とは異なり、「聴聞(ちょうもん)」が行われます。
聴聞は、口頭審理が原則ですので、決まった期日及び場所に出向いて意見を述べることになりますが、代理人を選任することもできます。
聴聞においては「営業停止命令の原因となる事実を証する資料等の閲覧」を求めることができます(行政手続法第18条)